所長のことば


「継承と創造」の旗のもとに―生涯学習実践研究所設立に当たって


生涯学習実践研究所 所長 合田 隆史

 

今後の人口減少社会が様々に予測される中、少子化対策とともに、生涯現役・全員参加型社会の実現の必要性が指摘されている。実際、我が国においては、単に長寿化で世界の最先端を走るというだけでなく、健康で、高学歴で、かつ社会参加意欲の高い高齢層の増加が見込まれる。これは、見方を変えれば、実は我が国にとって極めて明るい展望でもある。人類の永遠の夢である不老長寿のユートピアに世界で一番近い国、それが日本である。

 だが、実際にはどうか。シニア世代の社会参画の機会は限られており、その知識や経験、活力を十分に生かし切れていない。また、若手の活躍を促進する方向にも、必ずしもうまく機能していない。有効求人倍率の回復が言われる一方で、非正規雇用が減る兆しは見えていない。非正規雇用の問題は、生活の不安定さもさることながら、長期の視野からの知識・技能の蓄積、継承が行われにくいことにある。

何かが足りない。あるいは、何かがうまくいっていないのである。経験から学び、それが継承され、そこから新しい知識や技能が創造され、それが実践に移され、そこからまた学びの蓄積と継承が行われるという、生涯にわたる「知の循環」サイクルを創り上げることが必要である。創造は、異なる知識や経験を持つ人々の間の相互作用から生まれる。つながることによって、一人ではできなかったことができるようになる。生涯にわたって創造的な営みを続け、世代を超えてその成果を継承しつつさらに新たな課題に挑む、そのようなサイクルを確立していくうえで、生涯学習に関わる研究者・実践者に期待される役割は大きい。我が国が世界に先駆けて切り拓くべきフロンティアがここにある。

 

このような中で、「継承と創造」を旗印として、日本生涯教育学会が実践研究所を設立されたことは、真に時宜を得たものである。しかし、この研究所の成否は、全国にどれだけ多くの地区センターができ、どれだけ多くの志を同じくする者がそこに集い、研究し、実践し、発信するかにかかっている。多くの同志諸賢の積極的なご参画により、本研究所を着実に発展させていっていただくことを心より祈念している。